
写真)停電で機能が麻痺したバラハス空港でタクシーを待つ旅行客。2025年4月28日。スペイン・マドリード
出典)Pablo Blazquez Dominguez/Getty Images
- まとめ
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- 2025年4月28日、イベリア半島で大規模停電が発生し、市民生活と経済に大きな影響を与えた。
- 停電の原因は調査中だが、電力網の脆弱性や再生可能エネルギーの導入拡大などが指摘されている。
- イベリア半島の事例は日本にとっても教訓となり、エネルギーの安定供給とレジリエンス強化が急務である。
2025年4月28日、スペインとポルトガルを襲った大規模停電。突然の暗闇が市民生活を混乱させ、現代社会の「電力頼み」の脆さをまざまざと見せつけた。街は機能を停止し、経済は大打撃。この事件は、エネルギーの未来を模索する私たちに何を教えてくれるのか? 現地の被害と復旧の様子を追い、日本への教訓を考えてみる。
1. イベリア半島の大停電:何が起きた?
■ 街が真っ暗に:被害の実態
2025年4月28日、昼の12時33分(中央ヨーロッパ夏時間)。イベリア半島が一瞬にして停電に飲み込まれた。スペインの電力網を管理するレッド・エレクトリカ・デ・エスパーニャ(以下、REE)によると、スペインとポルトガルのほとんどの地域で約10時間、場所によってはそれ以上、電気が完全にストップ。フランス南西部にも影響がおよび、小規模な停電が発生した。
スペインのペドロ・サンチェス首相は記者会見で「12時33分、電力需要の6割、15ギガワットがわずか5秒で消えた」と述べた。この停電により市民生活は以下のとおり大きな影響を受けた。
- 命の危機: スペインで7人、ポルトガルで1人が死亡したと報じられた。ろうそくによる火災、発電機の排気ガス中毒、医療用人工呼吸器の停止などが原因だとされる。
- 交通麻痺: スペインの鉄道が全線ストップした。3万5,000人もの乗客が列車に閉じ込められた。地下鉄も停止、信号機もダウンし道路は大渋滞となった。マドリードのバラハス国際空港は非常用電源でなんとか持ちこたえたが、フライト遅延は避けられなかった。

- 情報と金の遮断: スマホもネットも使えず、電気店にはラジオを求める行列が。ATMもクレジットカードも使えず、買い物すらままならない状態に陥った。
- 経済の大打撃: スペイン経済団体連合(CEOE)は損失を16億ユーロ(GDPの0.1%)と試算した。ポルトガルでもスーパー、薬局、電子決済が全滅、経済活動が麻痺した。
- 医療の危機: 病院は非常用発電機でしのいだが、手術や診療の延期が続出した。
- 原子力発電所の安全: スペインの原子力発電所は自動的に送電網から切り離され、非常用電源で無事だった。

■ 復旧の舞台裏
各国は必死の復旧作業に追われた:
- スペイン: REEは同日午後4時から復旧開始。6~10時間で電力を戻すべく、アラゴン・カタルーニャやガリシア・レオンから再接続。水力やガスタービン発電所、モロッコやフランスからの電力融通をフル活用。翌29日朝7時に需要の99%を回復、午前11時には完全復旧した。
- ポルトガル: 送電事業者の国家エネルギーネットワーク公社(REN)は、タパダ・ド・オウテイロの天然ガス発電所の「ブラックスタート」(外部電源なしで発電所を立ち上げること)によって送電網の復旧を開始した。その後、カステロ・ド・ボーデ水力発電所を外部電源に接続することで復旧を進めた。同日28日23時半までに高圧送電網の復旧を完了。翌日早朝には、配電事業者(E-REDES)が中低圧の配電網もすべて回復させた。
■ なぜ起きた? 原因を追う
停電の原因はまだ調査中だが、欧州送電系統運用者ネットワーク(以下、ENTSO-E)によれば、4つの可能性が浮上している:
- 電力網の乱れ: REEによると、電力の流れが「激しく揺れ」、周波数が急低下。スペインの電力網が欧州全体から切り離され、ドミノ倒しのように崩壊した。
- 太陽光の落とし穴?: 停電時、スペインの電力の59%が太陽光発電だった。再生可能エネルギーの急増が電力網の安定を乱した可能性が議論されている。ただ、REEは「直接の原因ではない」と否定している。
- 古いインフラ: 南西スペインの太陽光や原子力発電所での発電量が急減したのが引き金となったとする見方もある。イベリア半島の電力網はフランスとの接続が細く、孤立しやすい弱点がある。
- サイバー攻撃?: REEやポルトガルのサイバーセキュリティ当局は「証拠なし」としているが、スペインの裁判所は妨害工作の捜査を始めた。
■ 各国はどう動いた?
- 欧州: ENTSO-Eが専門家チームを結成し、原因究明と再発防止策を模索中
- スペイン: サンチェス首相が国家安全保障会議を緊急招集。環境移行・人口問題省(MITECO)が調査委員会を立ち上げた。
- ポルトガル: モンテネグロ首相が「エネルギー危機」を宣言し、EUに電力網の総点検を要請した。
■ これからどうする?
この危機を繰り返さないために、以下の3つのアクションが急務だ。
- 電力網のアップデート: 国境を越える電力のやり取りを強化し、蓄電池や揚水発電でエネルギーを貯める仕組みを構築する。
- 安定性の担保: 再生可能エネルギーの波を乗りこなす技術とインフラを整える。
- デジタル化の推進: AIやスマートグリッドで電力の流れを賢く管理する。
2. 日本への教訓
イベリア半島の停電を見て、「遠い国の話」とは思えない。では、日本の電力網に同じことが起きる可能性はあるのだろうか?
■ 日本の課題と解決策
記憶に新しいのは、2018年の北海道胆振東部地震だ。北海道全域がブラックアウトした。地震、台風、豪雪、雷…自然災害から逃れることはできない。気候変動による異常気象は電力網に対する脅威だ。さらにサイバー攻撃の脅威もある。
ここで日本が抱える電力の課題と、その対策を整理しよう:
1. エネルギー構造のジレンマ:
課題: 化石燃料に依存しており、エネルギー自給率は低い。原子力発電所の再稼働も道半ばであり、エネルギーの多様化と安定供給が課題。
対策: 政府はエネルギー基本計画(2025年改訂第7次)で、再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用するとしている。
2. 再生可能エネルギーの落とし穴:
課題: 太陽光や風力は天候次第で出力が変動する。これが電力網の安定に影響を及ぼす可能性がある。送電網の容量や調整力の不足も課題だ。国際環境経済研究所の山本隆三所長はスペインの事例を引き合いに出し、「再生可能エネルギーが増えても停電は防げる。でも、送電網の強化や電源のバックアップが欠かせない。コストとリスクのバランスがカギ」だとしている。
対策: 電力需給バランスが悪化しないよう、蓄電池やデマンドレスポンス(需要調整)を導入。電力系統を最大限活用しより多くの電力を送電するための取り組み、「コネクト&マネージ」で既存の電力網を賢く使うとともに、増強にも投資していくことが求められる。また、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が全国の電力需給を調整し、広域運用を強化している。
3. インフラの老朽化:
課題: 老朽化した送電線や変電所は災害に弱い。過疎地域での維持も大変。
対策: エネルギー供給強靱化法で、送配電事業者に災害時連携計画の策定を義務化するとともに、復旧費を相互支援させる制度を創設。ドローンやAIで保安業務を効率化。
4. サイバーの脅威:
課題: 電力システムのデジタル化が進む中、サイバー攻撃のリスクが増え、セキュリティ対策が後手となるおそれがある。
対策: サイバーセキュリティガイドラインを改訂し、情報共有やサプライチェーンのリスク管理を強化。
イベリア半島の停電は、電力が現代社会の命綱だと改めて教えてくれた。再生可能エネルギーへのシフトは待ったなしだが、システムの安定や災害、サイバー攻撃への備えがなければ、スペインの二の舞になることは避けられないだろう。日本は引き続き、技術革新、インフラ投資、制度の見直しを進める必要がある。
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